コットン生産の闇と、オーガニックコットンを選ぶべき理由

Tシャツ、パジャマ、下着、タオル、バッグなど、私たちに一番身近な繊維であるコットン。

肌ざわりがふんわりと優しく着心地はなめらかで、年中通して快適。さらに化学繊維と違って繊維の先が尖っておらず繊維がやわらかいので、お肌への刺激も少なく赤ちゃんや肌の弱い方にも安心して使われます。

けれどその生産の過程では、環境汚染や貧困層搾取、生産者の健康被害といった、コットンのイメージとはほど遠い現実があるようで…そうした問題を解決できるのがオーガニックコットン、というのが今日のお話。

これを読めば、これからは積極的にオーガニックコットン商品を選びたくなるはずです!

オーガニックコットンと普通のコットンの違いとは?

オーガニックコットンでも普通に栽培されたコットンでも、肌へのやさしさや着心地のよさに違いはほとんどありません

普通のコットンでも残留農薬はとても少なく、化学的なテストなどでもオーガニックかどうかを判別することは不可能なようです。

ではなぜオーガニックコットンがおすすめなのか?

その理由は

①環境へのやさしさ

②労働者へのやさしさ

です。


1.環境へのやさしさで考える

①農薬散布による温室効果ガスの発生

普通のコットン栽培では、害虫駆除や雑草管理、防カビ剤、殺菌消毒、収穫前の落葉剤など、大量の農薬と化学肥料が使われています。
農薬をまいた農地が発する亜酸化窒素ガスは、二酸化炭素の310倍の温室効果があるとも。

一方で、オーガニックコットンを栽培するような農薬を使用していない土地は、むしろ二酸化炭素を吸収してくれます。

 

②水不足の大きな原因になっているコットン栽培

世界では水不足が深刻な地域も多くあります。

発展途上国では子供が清潔な水を手に入れられずに川からくんだ汚い水を飲んでいたり、それが原因で病気になり長く生きられない人が大勢います。

WWFは、”今すぐ保全対策を打たなければ、世界人口の約半数が2030年までに深刻な水不足に直面する”と考えています。

こうした問題の大きな原因の一つと考えられているのが、アパレルやテキスタイル産業、特にコットンをめぐる産業です。

同じジーンズ1本を生産する過程において、普通のコットンではなくオーガニックコットンを使用した場合、使用する水の量はその10分の1程度で済むのだそう。

コットン栽培で使用する水はブルーウォーター(河や湖の水)とグリーンウォーター(雨水や土壌に蓄えられた水)の2種類があります。農薬を使用していない健全な土壌は水の吸収力と保持力が優れており、オーガニックコットン栽培の95%はグリーンウォーターで賄うことができるため、ブルーウォーターに頼る必要がなく、水資源の使用量が少なくて済むのです。

③水質汚染の20%はファッション産業が原因に

世界の水質汚染のうち、20%がファッション産業が原因になっていると言われています。

しかしオーガニックコットンであれば栽培時に有害な農薬や肥料を使わないため、水質汚染を9割以上も抑えることができるのだそう。



2.労働者へのやさしさで考える

コットン生産国は半数近くがインド 。他にアジア、アフリカ、南アメリカなど、貧しい地域に集中していると言われています。

そしてその生産現場では、生産者にとってとても過酷な現状が山積しているようです。

①生産者たちの健康被害

農薬には国ごとに規制があるものの、手摘みの作業を必要とするコットン栽培では、農薬が労働者の素手に触れたり素足で踏んだり、散布時に直接皮膚に触れたり、農薬の正しい取り扱い方法を学ぶ機会がない、防護服を買うお金のない労働者もいます。その結果、手肌がボロボロになったり皮膚疾患を患ったり、毎年7700万人の農民が中毒死や深刻な健康被害に苦しんでいるという報告もあるほど。ある地方ではたくさんの奇形児が産まれたという事態も生じました。

コットン生産者のみならず、農薬は地面から地下に浸透して地域の水質も汚染し、周辺地域の人々の健康被害も懸念されます。

オーガニックコットンのように、有害で毒性の高い化学物質を使用しない栽培であれば、このような問題から彼らを守ることができるでしょう。


②小規模農家の経営難、自殺者の急増も

1995年以来、27万人以上のインドのコットン農家が自殺しており、貧困との関連性が指摘されています。

インドやパキスタンでは家族経営の農家が多く、農業に必要となる肥料や殺虫剤・遺伝子組み換え種子を借金して購入するところから始まります。しかしコットンの市場価格はどんどん安くなっていき、もっと多くのコットンを収穫するために肥料を多く投入しても、その分肥料代がかかります。さらに肥料を使いすぎると土壌のバランスが崩れ、病気や害虫被害も広がり、農薬を多用しなくてはならないという悪循環。収穫量が増えても出費が増えるため、収入向上につながらないのです。コットンは同じ面積・同じ期間で栽培できる他の作物と比べて得られる収入が低いそう。

その結果借金苦で自殺してしまう農家が後を絶たず、30分に一人が自殺しているという報告もあるほど。

しかしオーガニックコットンであれば、遺伝子組換え種子や農薬、化学肥料を使わないため、生産コストを大幅に削減でき、借金や貧困に苦しむ農家を大幅に減らせる可能性があります。


②児童労働が深刻な問題に

インド国内のコットン関連産業では、約50万人の子供たちが学校に行かず就労する、児童労働をしていると推定されています。

幼い子供たちが教育の機会を奪われ、毒性の高い化学物質や危険な道具を使って過酷な労働環境で働かされているのは深刻な人権問題です。

 

③低賃金で長時間の強制労働をさせられる労働者たちも

人手が必要なコットン農場では、児童労働と共に強制労働の問題も報告されています。

こういった人権問題はコットン農場だけでなく、次に送られるアジア諸国やバングラデッシュでの縫製工場での劣悪な労働環境や低賃金の長時間の強制労働もあげられます。

コットン製の洋服が数百円~の安い価格で買えるのは、企業努力だけで実現されているとは考えにくいことです。このような製品の生産の過程に、人権に配慮されずに良好とはいえない労働環境で、低賃金で長時間働かされた人たちがいたからゆえかもしれません。


人権問題の根幹はその安さ

児童労働や強制労働などの人権問題は、コットンが安い単価で売買されているのがその原因の一つです。
例えばインドでは1ヘクタールあたりのコットンの平均収穫量が530kgであるのに対し、コットンの相場価格は2021年秋で2.78ドル/kgです。この数字で計算すると、1ヘクタールで約4~6ケ月かけて17万円程度。およそ 25mプール3636個分。綿摘みを人手で行なっている農場で、1ヘクタールのコットンボールを摘み取るために、どれだけの人が必要なのか。相当な人手を要することがわかりますよね。



オーガニックコットンが解決できること

これまでのコットン生産過程にあったさまざまな問題が、オーガニックコットンによってたくさん解決できるという事をおわかりいただけましたでしょうか。

まとめると

  1. 温暖化抑制効果
    農薬をまいた農地が発する亜酸化窒素ガスは二酸化炭素の310倍の温室効果があるのに対し、農薬や化学肥料を使用しない土地は二酸化炭素を吸収します。
  2. 水不足解決に貢献
    オーガニックコットンなら使用する水の量も普通のコットンの10分の1程度に抑えられ、水不足解決に大きく貢献します。
  3. 水質改善
    毒性の強い農薬を使わないため、水質改善が期待できます。
  4. 生産農家の借金からの解放
    慣行栽培で使用する遺伝子組換え種子や農薬、化学肥料を使わないため、生産コストを大幅に削減することができます。オーガニックの種子は遺伝子組換え種子と違い自家採取が可能なため、借金の必要もありません。
  5. 健康被害からの解放
    生産者や周辺地域住民は、毒性の強い農薬や水質汚染による健康被害から解放されます。
  6. 児童労働、強制労働の撲滅に寄与
    認証機関によって児童労働や不当な環境での労働が強いられていないかなどの審査を受ける機会が設けられ、フェアトレードの実現に近づきます。

普通のコットンに比べてオーガニックコットンを使用した製品は価格が高いです。とはいえ、少々高くなってでもオーガニックコットン製を選ぶことには、おつりがくるほどたくさんの理由があると思いませんか?


オーガニックコットンの定義とは?

WWFジャパンHPによると、オーガニックコットンとは

■綿花栽培の過程で、

  • 認証機関の認証を受けた農地で2~3 年以上にわたり生産
  • オーガニック農産物等の生産方法の基準を順守
  • 栽培に使われる農薬・肥料の厳格な基準を順守

■紡績、織布、ニット、染色加工、縫製などの製造工程で、

  • 全製造工程を通じて、オーガニック原料のトレーサビリティと含有率が確保されていること
    トレーサビリティとは、生産、流通、保管、販売に至るまでのルートを記録し、「いつ、どこで、誰が生産し、どうやって流通したのか」を明確化したシステムのこと。これにより、オーガニックコットン製品では紡績や染色、縫製など製造すべての工程で、化学薬品の使用による健康や環境への負荷、および労働の安全や児童労働など社会規範を守って製造したものかどうかがわかるようになる
  • 化学薬品の使用による健康や環境的負荷を最小限に抑える
  • 労働者の安全や健康に配慮されていること
  • 児童労働を排除し社会的規範を守って製造を行っていること

などをいいます。

実はこの定義も、認証機関によって変わってくるようです。

オーガニックコットンの認証は機関によって様々

日本にはまだ、オーガニックコットンに関する法的基準がまだ整っておらず、明確な基準がありません。

一方世界ではいくつもの認定機関があり、商品につけられた認定マークは商品を選ぶ際の参考になるかもしれません。

しかし認定機関により認定条件も様々です。

例えば、とても厳しい基準で世界的信頼度の高い認定機関GOTSでは、オーガニック原料使用量は70%~100%、従来の慣行栽培から有機栽培に切り替えたことで生産者及びその家族の生活環境が向上しているなど、様々な要件があります。しかし機関によってはオーガニック原料を5%でも使えば製品の製造過程は従来のままでも良い、つまり児童労働の禁止など人権問題については特に問わないような機関もあります。


私たちにできることとは?

現在はコットン生産量のうち、オーガニックコットンは全体の1%にも及んでいません。

オーガニックコットンは普通のコットンよりも価格が高いです。その生産には手間も時間もかかり、労働者には適切な報酬を支払っているからです。

しかし、売れなければ生産者を守ることはできません。

企業のブランドイメージアップのためや意識の高い消費者に商品を買わせようと、環境に配慮しているふりをしたグリーンウォッシュ系メーカーを見極める必要はありますが、オーガニックコットンが手に取りやすい価格で供給され、今よりもっと世の中に広まっていくためには、気づいた人から積極的にオーガニックコットンを選択していく以外ないのではないでしょうか?

認証がないから、100%オーガニックコットンではないから、など0か100で白黒つけることはないと思っています。認証取得は簡単ではありませんし、認証を取得している洋服も実際まだまだ少ないです。

しかし私たちがオーガニックコットンを使用した製品を選ぶことで、消費者として生産者を支えるのです

需要があればメーカーは生産者と長期契約を結ぶことができますし、需要が高まれば価格も下がっていくかもしれません。

商品の値段や品質だけでなく、地球環境や生産者の労働環境に思いを寄せて、世界中の誰一人として犠牲になることなく健康で幸せに暮らせるように、エシカル(=倫理的)な選択のできる人が増えていくことで、未来は変えていけるはずです。



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